アイ・クリエイツレポート #8
主催 株式会社ラビット 日時 平成14年5月11日(土曜日) 11時〜15時30分 会場 東京年金基金センター セブンシティ3階 欅(けやき) ■プレゼンテーション <参加協力機関・企業(50音順)> 株式会社高知システム開発 障害者職業総合センター 日本アイ・ビー・エム株式会社 その他 ■パネルディスカッション <司会> 日比野 清 佐野国際情報短期大学社会福祉学科教授 <パネリスト> 岡田 弥 社会福祉法人日本ライトハウス 盲人情報文化センター 坂本 洋一 厚生労働省 社会・援護局 傷害保健福祉部企画課 障害福祉専門官 長岡 英司 筑波技術短期大学 教育方法開発センター 助教授 山口 和彦 東京都視覚障害者生活支援センター 指導訓練課長
1.趣旨 ・・・ラビットニュースより・・・
このセミナーは、最新のスクリーンリーダーの開発状況や展望などを各開発メーカーに直接語っていただき、質疑応答をしたり、視覚障害者に対するパソコン指導の現状や問題点について、行政・教育・生活訓練・ボランティア育成など幅広い観点から各専門家に語り合っていただくというものです。
2.第一部 プレゼンテーション
午前中は、最新のスクリーンリーダーの開発状況が聞けるということでかなり期待をしていました。現在視覚障害者のかたが使われているパソコンのOSは、98かMEという状況ですが、いま店頭に並んでいるパソコンがすべてWindowsXPがインストールされているものになってきていることからみても、視覚障害者がいずれXPを使わざるを得ない状況になるのは必至です。そこで主なスクリーンリーダーのWindowsXPへの対応状況が気になるところでした。
この日は、高知システム開発による「PCTalker」、障害者職業総合センターによる「95Reader」、日本アイ・ビー・エムの「JAWS」(ジョーズ)のプレゼンテーションが行われました。
<PC Talker>
株式会社高知システム開発
まず、高知システム開発の担当者からは、WindowsXPに対応した PC-TalkerXP Ver.1.0(ピーシートーカーXP) (2002年3月発売)の紹介がありました。
- Acrobat Reader(PDFファイル)の読み上げ
- ピンディスプレイ出力を標準装備
- 簡単な操作でファイル管理ができる「MYFILE」と高機能音声エディタ「MYEDITU」が連動
- ワンタッチで語句の意味を調べられる国語辞典検索機能
以上の特長について説明があり、また視覚障害者の間で多くのシェアを誇るMMメールとの連携問題については、制作者である宮崎氏に対して、PC-Talkerβ版を発売前に提供して公開するという形で協力体制をとっているとの説明がありました。
<95Reader>
障害者職業総合センター、(株)システムソリューションセンターとちぎ、ニューブレイルシステム(株)
95Reader の現行バージョンV4.0は、Windows2000 対応の 2000Reader(95Reader Version4.0)であり、最新のパソコンの主流である Windows XP への対応版が待ち望まれていたが、
今回デモ版が間に合って実際に起動しているところを聴くことができました。このWindowsXP 対応のVersion4.5 は、6月リリースの予定だそうです。
このソフトウェアの大きな特長は、動作の軽快さと、『広辞苑』や『医学大辞典プロメディカ』などの各種 CD-ROM 辞書・辞典への対応を実現したということで、その他にもV4.0における読み上げの不具合がいくつか修正されているようです。
また、今回点字使用者への対応を強化するために、ニューブレイルシステムに 95Reader のソースコードを提供して、新たなスクリーンリーダーの実現を図りました。それが、6月同社からリリース予定の WinVoice です。
その主な特徴は以下のとおりです。
- かな分かち書き・六点漢字・漢点字表示など、各種点字表記に対応
- 完璧なタッチカーソル対応のほか、シフト表示に伴うカーソル追随など、点字ディスプレイの特長をフルに生かす機能を搭載
- スピーチ API(SAPI)対応により、好みの音声エンジンが利用可能
- キー操作など 2000Reader の操作性を継承するとともに独自の操作機能も付加
- Word、Excel をはじめ WZ EditorやMMメールなど各種アプリケーションに対応
この 95ReaderV4.5 と WinVoice のどちらを使えばいいのか、その棲み分けの説明としては、
〈95Readerの主なユーザー〉
音声のみのユーザーと、音声と画面拡大を併用するユーザー、つまり全盲と弱視のかた。
〈WinVoice の主なユーザー〉
音声のみのユーザーと、音声と点字を併用するユーザー、そして点字のみのユーザー、つまり全盲で点字の読み書きを習得しているかたと、盲聾のかた。ということでした。
<JAWS for Windows>
日本アイ・ビー・エム株式会社
アイ・ビー・エムからは、同社開発のProTALKER 97 による読み上げ方式を採用しているスクリーンリーダー JAWS for
Windows Version3.7日本語版のデモンストレーションがありました。
この特長としては、スクリプトマネージャー機能を使用して独自のスクリプトを記述することによって、出荷時には対応されていないアプリケーションにも対応が可能になるというもので、幅広いアプリケーションに柔軟に対応可能だということでした。
WindowsXPへの対応としては、現在発表できる段階にはないということでしたので、方針決定の発表が待たれるところです。
3.第二部 パネルディスカッション
「視覚障害者のパソコン教育における現状と問題点」というタイトルで4名のパネリストが招かれ、佐野国際情報短期大学社会福祉学科教授の日比野清さんの司会進行のもと活発なディスカッションが行われました。
日本ライトハウス盲人情報文化センター 岡田 弥氏
岡田氏は、大阪で障害者へのパソコン指導を手がけている非営利団体ということで、サポートをする立場からのご意見が伺えました。
このセンターに相談にやってくる障害者のかたの大多数がパソコンのことをほとんど知らない状況で、機器の購入にしてもハードとソフトをまるごとセットで、あとはコンセントにつなげば使えるという状態にセッティングするまでのサポートが必要だということでした。
また、よく行われている短期間のIT講習会では、基本となるキー操作を覚えてもらうだけで終わってしまうことが多く、活用するレベルまで到達するのが難しいことから、サポートをする相手のかたにいかにやる気になってもらうかが大事で上達の速度が格段に違ってくるというお話がありました。
厚生労働省 社会・援護局 障害福祉専門官及び情報専門官 坂本洋一氏
坂本氏からは、行政の障害者及び支援者への対応についてお話がありました。
まず、視覚障害者のパソコンやインターネット利用者の割合が数年前と比べて確実に増えてきており、利用者の意見としては積極的に生活内容が変わった、と回答している人がほとんどであるということで、今後も障害者へのIT推進の施策を積極的に推進していくために総務省、経済産業省と協力体制にあるということです。
また、アメリカのリハビリテーション法508条の改正による影響で、日本でも情報のバリアフリー化がもっと認知されていく必要があるが、専門知識を持った技術者が不足しているため、支援技術者という資格を設ける計画があるそうです。
IT推進の対象はパソコンだけじゃないのでは?という会場からの質問に対しては、パソコンに限らず情報通信手段の支援技術という位置づけで検討されているということでした。すでに昨年、日本障害者リハビリテーション協会のある戸山サンライズにてセミナーが実施されており、今年度も地域指導者育成講座として、年に2〜3回の「支援技術セミナー」を開く予定になっているということで、最終的にはオンラインによる学習体制に持っていきたいとの説明がありました。
さらに、現在視覚障害者へのサポーターとしてパソコンボランティアのグループがいくつもあり、活発な活動がなされているが、今後はその団体どうしの横のつながりを持たせて、困ったとき気軽に尋ねられる場を増やすために、先の支援技術者を核とした地域の組織をつくりあげる体制も整えていきたいということでした。また、NPOやボランティア組織に対する資金援助に関してもいろいろなルートで実現するよう検討が進んでいるそうです。
会場からは、やはり行政の今後の方針を知りたいという内容で、坂本氏への質問が一番多かったようです。日常生活用具給付制度の対象についてや、給付金限度額が地域によって差があるという問題、通信料を優遇して欲しいという要望などが上がっていました。
筑波技術短期大学教育方法開発センター 助教授 長岡英司氏
長岡氏は、ご自身が視覚障害者であり、大学でも視覚と聴覚障害の学生に対しての専門教育を行なっているということで、教育の立場からのご意見が伺えました。
長岡氏はMS-DOSの時代からパソコンを使われていたそうで、すべてテキストベースで操作できていたのが、Windowsに変わってから非常に困難を感じているということがまず最初に述べられました。
視覚障害あるいは聴覚障害の学生たちには、それぞれの特性にあった指導が必要で、視覚障害にしても全盲と弱視では全く内容が異なり、弱視の程度によってもさらに異なる対応が必要だということで、大学の教室には、常に新しい技術に触れられるようにハードとソフトを揃えておきたいが、経済的にも技術的にもなかなか追いついていくのが困難であるということ、Windowsの改版による負担も大きいということを強調されていました。
それでもまだ筑波技術短期大学の学生は恵まれているということで、全体的に障害者に対するIT教育の場が少なすぎるという問題を指摘され、当事者によるサポート、つまり障害を持っていても優れた技術を持っているかたが大勢おり、障害者同士でサポートできる場というものを実現していくことも必要であるというご意見でした。
東京都視覚障害者生活支援センター 指導訓練課長 山口和彦氏
ご自身が視覚障害者である山口氏の所属する生活支援センターでは、ITの三種の神器であるワープロ、メール、インターネットについてのサポートを行なっているということでした。まずパソコンは難しいということ、でも山口氏も岡田氏と同じように、講習を受ける障害者自身にいかにやる気を持ってもらうかで支援内容に大きく差が出てくるということでした。 一つの例として、どうしても自分史をワープロで書きたいというかたは、最初の回でキー操作の講習を受けると、次の回までには全部のキーを覚えてきてしまう、という具合にどんどん進んでいくことができるということでした。
4.まとめ
セミナーに参加してまず感じたのは、セミナー主催のラビットは視覚障害を持つ社員のかたが大きな原動力となっている会社であるということでした。これまで障害者関連のセミナーにいくつか参加してきましたが、どこでも当事者によるプレゼンテーションやデモンストレーションが行われており、最新技術の開発にしても障害者自身が参加してこそ本当に必要なものができあがっていくのだと痛感しました。
今後ますます情報のバリアフリー化やユニバーサルデザインが求められていくことは明らかです。日常生活においても障害者に優しい技術は健常者にとってもきっと優しいはずです。そのためには、もっと支援する側とされる側の情報交換の場が日常的にならなければいけないのではないでしょうか。今回のようなITセミナーはそのような場としてとても有効であったと思います。今後も是非続けられることを願います。
最後に、今回のセミナーには当社の事業にご協力いただいている視覚障害者のY氏と共に参加しました。私の不慣れな誘導にグチ一つこぼさずついて来てくださり、スクリーンリーダーのXP対応状況や障害者へのパソコン周辺機器購入費一部助成制度の内容など、障害者をとりまくいろいろな問題についてご意見をいただきました。この場を借りてY氏に感謝申し上げます。 (J)